地域情報化:地域における情報分野で自治体が担うべき役割は何か(4)

前回の記事「地域情報化:地域における情報分野で自治体が担うべき役割は何か(3)」の続きです。
ここまで解説してきた、許認可申請に関するオンラインでの情報提供は、次のような状況でした。

  1. 手続き件数が多いものは、紙媒体から派生した情報を掲載することにとどまっている。
  2. 手続き件数が少ないものは、事務の省力化に寄与しないため、積極的に行っていない。
  3. 部局間での連携がないため、同じ申請者に対して関連した情報提供を行う体制ではない。

これらに対して、次のような課題意識を私は抱いています。

  • 最終的には提供する情報の質の向上、維持が課題であること(1.に関連)
  • 手続き件数の多寡に関わらず、電子申請が受け付けられる状態であるのならば、申請者の行為がオンラインで完結するためにも情報提供が行われるべきであること。その際、少なくとも業務に関する形式知化された何か、例えば根拠法令や上級官庁からの通達などでも情報提供する意味があるということ(2.に関連)
  • 組織の改革で情報提供の姿勢を変えていくのはかなりエネルギーを要するということ。マイナンバーは国家全体でその姿勢を変えていくきっかけになりますが、これまでの電子行政の経緯を見ると、骨抜きになる可能性もあるということ(3.に関連)

さて、今回は話の続きというか、論理の飛躍になるかもしれません。
一連の記事のテーマである「地域において情報分野で自治体が担うべき役割は何か」という問いに対する答えについて、私は次のように考えます。
前章では、情報提供についてを電子申請に関連した分野での話としていましたが、1.2.3.それぞれの対応策は、もう少し広い範囲にまで拡大することが可能だと思います。
すなわち「効果的な情報提供」というのが自治体の担うべき役割です。
これまでの内容を踏まえると、

  • 自治体から、
  • 個々の利用者に最適化された情報を
  • その質の向上に対する継続的な取り組みを行いながら
  • 発信する。

となります。
電子申請に関する事例については、もう納得いただけることでしょう。
前回の記事では、こんなことを書いています。覚えてらっしゃいますか?

「前述の電子申請システムが電子政府、電子自治体の一部を構成しているとすると、電子政府を構成している他の要素は何でしょうか。

e-Japan計画を始めとする国の計画では、大きく分けて、医療、福祉、教育、雇用、産業育成などが含まれています。ただ、これらは電子申請に比べると、官民協同の意味合いが強く、行政側で主体的な方針を打ち出しにくい状況にありました。

結果、具体的な施策を検討するよりも、将来に備えて、まずは情報通信基盤の整備を進めることが主だった取り組みとされています。

ちなみに、昨年度時点で通信基盤の整備はおおむね完了しています。
これ自体は大変よい話なのですが、今後はいよいよ、先送りにしてきた問題をどのように解決していくかが主たるテーマになろうかと思います。」

情報通信基盤は整備されつつあります。
そして、医療、福祉、教育、雇用、産業育成という他の要素における問題をどのように解決していくか、という問いの答えも、「効果的な情報提供」を抜きにして考えられないと思うのです。
これまでも、似たような話はいろんな方が語っています。
しかし、決め手と言えるようなベストプラクティスが今までなかったのですね。
ところが、少しだけ技術の進歩が進み、「Web2.0」なる考え方が出てきました。(ちょっと旧聞になりますか)
この考え方に則って、情報提供に対する考え方の幅が広がったように思います。
つまり、自治体から提供する情報は、完全パッケージのものではなく、ユーザー側で加工し、再利用するための「素材」であるという考え方です。
実は、私自身も似たようなことを過去に考えていて、以前お付き合いのあった高知県のシステムで、情報(正確にはデータ)を公開する機能を追加したことがありました
「黒潮牧場ブイ情報」というWebページです。
高知県漁海況情報システム
http://www.suisan.tosa.pref.kochi.lg.jp/
これは、太平洋沖に風速、風向、流速、流向、水温、波向、波高を計測する機器を浮かべてあり(正確には浮き漁礁に計測機が乗っている)そこからの情報を集約して表示するサイトです。漁師さんがこの情報をみて漁に出るのかを決めています。
この中で、数値データをRDF形式で発信している項目があります。
一般の漁師さんは関心を示しませんが、中にはこのRDF形式のデータを読みとって加工するソフトウェアを作り、他のサイトの情報やサービスと組み合わせることにより、さらに便利なサイトを作る、ということができるようにしています。
http://www.suisan.tosa.pref.kochi.lg.jp/rss/10/rss10.xml
これは、自治体がお仕着せの情報をただ流すのではなく、再利用を前提とした情報提供により、情報の新しい価値を生み出すことを狙っているものなのです。
これは一つの事例です。何かの参考になりましたら幸いです。
ちなみに最近「オープンデータ」という言葉をちらほら見かけますが、オープンデータと上記の取り組みは少し違います。どちらが優れているということではありませんが。
次回はその辺りも含めて考えていくことにしましょうか。