情報システム調達:モレなくダブりなくシステムの委託契約を行う工夫を(3)

前回の記事「情報システム調達:モレなくダブりなくシステムの委託契約を行う工夫を(2)」の続きです。
架空の自治体、自治市のお話です。
これまでの自治市は、運用委託、保守委託を包括して「運用保守委託」という形態で契約を締結していることが一般的でした。
というか、包括委託について誰も疑問を感じていなかったんですね。
でもよく考えてみてください。
運用と保守とはそもそも違う仕事ではありませんか?
民間企業ならば当たり前となっている「職務の分離」が自治市では、まだまだ行われていません。システム監査を行ったら、真っ先に発見事項として記録されます。
運用委託とは文字どおり、情報システムの運用を委託するもので、具体的には情報システムの操作や稼動監視、構成管理、障害発生時の一次切り分けなどを担当します。
本来、これらの作業は開発した情報システムの納品を受けた自治市職員が行うものです。ただ(建前上は)自治市職員の人手が足らず、システムの稼動を安定的に行うために、やむを得ず外部の業者に委託している、という整理をしています。

  • システムの操作を伴う作業(通常の作業、特殊な状況下の作業)
  • システムの稼働監視
  • ログ収集
  • システム外の作業
  • 問い合わせ対応・ヘルプデスク
  • コンサルティング
  • 障害時の切り分け報告
  • 市への報告(定期報告)
  • システム構成管理
  • 会議の運営

一方、保守委託とは情報システムそのものの完全性を維持し、パッチの適用など、これまた文字どおりシステムの保守を担当します。
もちろんシステムの改修も、その理由のいかんを問わず保守委託の対象となります。無償バージョンアップも保守委託の一種ですね。
そのため自治市では、ウイルスチェックソフトのパターンファイル更新についても、その潜在的な影響を無視できないため、保守委託の一環として整理しています。

  • 障害原因調査
  • ソフトウェア改修(不具合修正、機能追加を問わない)
  • バージョンアップ(パッチ適用)
  • システム復旧
  • マニュアル等のドキュメント類の更新
  • システム運用業者への報告

すなわち、運用委託と保守委託の切り分けポイントは「システムそのものに変更を加えるか否か」と考えられます。
乱暴な言い方をすれば、

システムの中身を熟知していなくとも受託できるのが運用委託業務
システムの中身を熟知しなければならないのが保守委託業務

なのです。
この切り分けにより、システムに関わる責任分解点を明らかにすることができました。
運用委託業務の根拠は、委託業務仕様書とそれに付随する各種の作業手順書です。「この場合はこうする」「あの場合はああする」という手順を示すことにより、誰でも受託の可能性があります。
仕様の不備は運用委託を行う上で致命的になりますが、発注者側がそのぐらいの緊張感を持って契約に臨まないと、受注する側も安心して入札金額を吟味することができません。
つまり競争入札により調達の公平性が得られるのです。
この取り組みを加速させるために、私は様々なシステムの運用委託や保守委託の仕様書を調査し、それらを包括的に整理した、

「標準委託仕様書」

を作成し、これを委託契約の標準書式として定着させました。
これにより、システムの運用や保守を委託契約を締結する際に、委託内容をモレなくダブりなく示すことができるようになりました。

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