前回の記事「積算と見積精査:行政機関の情報システム調達における積算業務は妥協の産物か(3)」の続きです。
架空の行政機関、自治市のお話です。
前回は、職員が面倒がらずに複数見積を取る方向に動いてもらうような仕組みづくりを考え、実践したところまでのお話でした。
こうなると、積算作業は比較的楽になります。もともと積算というのは、予算協議のための基礎資料ですので、複数ベンダーからの見積を比較してみれば、ある程度の方針は見えるというものです。
また、ベンダー間で見積額に大幅な乖離がある場合には、自治市から示した前提条件の解釈が異なる場合が多く、それを補うべくシステム設計書の品質向上を促すこととなり、調達後のトラブルを軽減する効果も出ています。
(結局、システム設計書の品質を向上させなければならないことに気づいてもらえるのです)
この取り組みは非常にうまく機能しました。
しかし、これだけでは解決しない案件もあるのです。
それは、単独随意契約(2号随意契約。Wikipediaでは特命随意契約という記述になっていました)にならざるを得ない情報システムです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9A%8F%E6%84%8F%E5%A5%91%E7%B4%84
これは多くの自治体で悩まされていることでしょう。
情報システムの委託費用に疑問を感じるケースの常にトップを走る事案だと個人的には思ってます。特に汎用機を抱える自治体では、悩みの種です。
自治市は、幸いにもこれまでのダウンサイジングの取り組みの結果、汎用機を撤廃しています。その上、パッケージをカスタマイズしたシステムの導入割合が他の自治体と比較して低く、開発委託したソフトウェアの著作権は自治市に帰属するという取り扱いをさせています。
その結果、ソフトウェアの著作権が市に帰属しないシステムの保守、運用の委託についてだけが、契約の相手を自動的に決定させる単独随意契約となっています。
自治市の抱える悩みとして、基幹系のシステムの中で一部のモジュールの著作権の帰属について合意に至らないものがあり、単独随意契約せざるを得ないものがあるのです。基幹系システムだけに、委託金額も決して安くはありません。
前述の積算ですが、当然この単独随意契約案件についても行うこととなります。
しかしながら、単独随意契約であるが故に複数ベンダーからの見積を取れず、見積精査法と言えど強気の精査はしづらい状況にあります。
精査して予定価格を決めたところで、契約ベンダー側が気に入らなければ契約できないわけですから。
私なんかは、契約できなくてベンダーも地方公共団体もお互い痛い目に遭ってみればいいんじゃないの、と思うのですが、悲しい小役人(?)の性で、強気な交渉もできないようです。(逆に補佐官は無茶なことを言い過ぎます、と言って怒られたりします)
となると、先ほどの職員向け説明会で話した建前論が活きてきます。
「契約交渉において、合意点を見いだす根拠はシステム設計書(保守や運用の場合には作業委託仕様書)にしかありません。
積算の段階で、今後の交渉に耐えられる品質のシステム設計書を作成してください。
それがイヤなら、単独随意契約に陥らない工夫をシステム開発時から意識しておく必要があるのですよ。」
こういう展開で説明すると、もともと面倒な仕事を増やしたくない訳ですから、単独随意契約を意識的に避け、また複数ベンダーからの見積も積極的に取ってくれるように意識づいてきます。
積算は情報政策部門が庁内の情報システムの方針に公式にコミットできる数少ない機会ですので、これをうまく使うことで庁内のITガバナンスを機能させようと試みたのでした。
積算書面そのものの作成の省力化というテーマもあるのですが、それはまた別の機会に。