前回の記事「情報システム調達:モレなくダブりなくシステムの委託契約を行う工夫を(1)」の続きです。
少なくとも2社以上の応札者が入札会場に現れる状況を維持するということは、1社入札となる状況を排除するということです。
1社入札になる原因について考えてみましょう。
架空の自治体、自治市では、情報システムに関わる予算を確保するために、参考見積をベンダーから集めることが一般的なのですが(これはほとんどの自治体、省庁とも同じですね)、この参考見積を1社からしか貰っていなかったのです。
#ここ最近、私が見聞きしている自治体の状況ですと、1社からの見積もり徴集は「ありえない」とのこと。
RFI(Request for Information:情報提供依頼)を行った事例も一部にありました。しかしそれは大規模システムの新規開発の際に行われていたものであり、庁内で一般的に採用されていませんでした。
(またもや架空の設定ですが、私が自治市に赴任したことにしましょう)私はこの状況を知ったときに愕然としました。
競争入札を行うのであれば、広く仕様を示して参考見積を集めることにより、予算額の客観性を保つことができるのですが、それが行われていなかったということは、やはり(広い意味で)ベンダーとの関係が正常ではないのではないかと疑ってしまいます。
そこで赴任して2年目からは、競争入札を行う案件について参考見積を複数のベンダーから貰うことを徹底しました。
これは新規開発や大規模改修に限らず、年次で発生するシステムの運用委託や、保守委託についても対象としています。
この取り組みは非常にささやかなものでしたが、波及効果は大きいものでした。
それは、今まで目をそらしていた問題を直視しなければならなくなったためです。
新規開発、大規模改修に関しては、複数ベンダーからの見積を何とか集めることができました。RFIを積極的に行うように指示し、情報収集と見積収集を効率的に実現しています。これは良い傾向です。
しかし、運用委託、保守委託に関しては、意外に苦戦したのです。
まず、現在委託契約を締結しているベンダーからの見積は(今までどおり)集められるのですが、他社はなかなか見積に応じてくれないのです。
その理由が2つ。
- 委託の対象となる情報システムの全貌が把握できず、契約に際して、リスクを負うこととなる。
- この地域のビジネス慣習(?)で、当初開発したベンダーが引き続き運用委託、保守委託を請負うことが一般的。他社との仁義もあるので、無理に動けない。
一見、もっともらしい理由です。
こういう理由であきらめるわけにはいきませんので、1.については、
- 対象となる情報システム(独自開発した部分に限られるのですが)のプログラム著作権は自治市に帰属しています。権利関係で悩むことはありません。ソースコードも開示します。
- 委託の内容について可能な限り開示します。
委託による責任範囲も明確にします。 - それでもリスクを感じるのであれば、その分を見積額に転嫁してもらって差し支えありません。
と提案することで、何とか見積をもらったのでした。
また、2.については、自治市としてそのような取引慣習は前提としていない旨を機会があるごとに各ベンダーには伝えています。その結果、最近ようやく意識が変わりつつあります。
この取り組みは意外と効果が出ました。
見積額が全体的に低下したのです。必然的に予算額も抑えられます。
また、見積に応じてくれたベンダーは、その後入札に参加する心理的ハードルが低くなったのか、入札会場に現れるようになりました。1社入札が若干解消され始めたのです。これもよい傾向です。