アイディアノート:経営戦略論 第1回 第2章

第2章 一番じゃなければダメですか
さて、前の章に続いて質問に答えるよ。
Q: 相手がいて、競争するんですよね? 私は競争なんかしなくてもいいと思います。
A: みんな仲良くいればいいんじゃないか、ということかい? まぁ、それも一つの考え方だけどね。
ただ、その質問には一つ誤解があるな。「競争に勝つ、負ける」というのを少し深刻に考えているんじゃない? 別に「競争に負ける」=「再起不能」というわけじゃない。逆に「競争に勝つ」=「完全勝利」でもない。
相手がいる競争というと、どうしてもその中で「ナンバーワンにならなければならない」という強迫観念があるようだが、世の中はそこまでAll or Nothingな世界じゃない。
どこかの国の国会議員が「世界一になる理由は何があるんでしょうか? 2位じゃダメなんでしょうか?」と発言をしてたことがあるけど、経営戦略の場面においては同感だね。つまり、競争はナンバーワンになるための取り組みじゃないということだ。
じゃあ、競争は何のためにするのか? 競争戦略を研究する学者は次のような回答をしているようだ。まぁ、これは正確な言葉じゃなくて、かなり私のバイアスがかかっているけど。
「業界平均以上の利益を長期的に得られるようにするため」
ここでポイントになるのは「業界平均以上の利益」「長期的」の二つだ。
おそらくこの科目の「企業経営」の回で「企業の目的は営利の追求である」みたいな説明をしていると思う。いや、私はその回の講義を見たことないけど。企業経営をテーマにしていて、その話がないのならインチキだ(まぁいいけど)。
さて、「営利の追求」つまり利益を得る(儲ける)ことが、企業の目的であることは、私も同感。利益を得た上でちゃんと納税して社会に還元し、残った利益を使って新しい事業へチャレンジするのが、健全な企業のあり方だと思う。
話が少し脱線した。重要なのは「業界平均以上の利益」を得られるようにするというところだ。赤字経営は論外だし、大して儲からないのでは、次のビジネスにつなげられない。かと言って、大儲けを強いられても困る。業界の平均よりも少し上あたりを目指すのが絶妙なポジションなんだと思う。
そしてもう一つ「長期的な利益」を得られるようにするというところ。瞬間的に儲けるのではなく、長く儲けるためには小手先のテクニックではなく、業界内の企業の立ち位置(これを経営戦略の世界では「ポジショニング」という)や企業内部の活動にも気を配る必要がある。
つまり実は競争とは「勝つものではなく、生き残るもの」と言い換えてもいいかもしれないね。
Q: うーん。どうしても競争しなきゃいけませんか?
A: 世知辛い言い方をすれば、業界内で完全に独占企業としているのでなければ、誰もが何らかの競争状態に置かれているのだと言える。
もっと言えば、ライバル企業との間の競争だけではなく、お客さんはいろいろ言ってくるし、商品や材料の仕入先もいろいろとうるさい、ということであれば、自社を取り囲む人々との間も一種の競争状態になっていると考えるのが、最近の経営戦略のトレンドだ。
Q: よほど競争が好きなんですね?
A: とんでもない。競争しないで済むのなら、その方がいいと思うこともある。
競争のためには何かを備えたり、対抗するための活動を行うこととなる。もし競争がないのなら、その分の資源を利益に回したり、従業員の給与にしたりとハッピーなことも期待できる。
ところが、自分は競争したくなくても、相手の事情で発生するのが競争というものなのだ。それに多くの消費者は、商品の提供者たる企業同士を競争させることで、自分たちはよい商品を安く手に入れられることを知っているので、どうしても競争するように仕向けられる。
そこで視点を変えてみよう。経営戦略(特に競争戦略)が「相手と競争して勝つためにはどうすればいいのか」を考えることであるのならば、「相手と競争しない方法」も考えられるのではないだろうか。この「競争を避ける」ことも重要だし、これまで解説してきたセオリーなどから導き出せるようになる。少し賢い振る舞い方だね。
Q: じゃあ、戦略のセオリーみたいなのを勉強すると全員勝ちになることができるの?
A: さっきも少し話したけど、勝ち負けという判断基準をそもそも疑う必要があるな。
ある領域では他社よりも優位性があるが、他の領域は弱いなんてことは、よくある話だし、不思議なことにどんな弱小企業でも顧客や取引先がいるものだ。固定費さえ削減できれば、どんな企業でも利益を確保することはできる。図体ばかり大きくて、赤字を垂れ流している大企業よりも魅力的だと思うけど。
勝ち負けは視点によって、また当事者の戦略の目的によって変わるのだ。
さて、ちょっと時間が余ったから、経営戦略論で使うフレームワークを少し紹介しておく。
(ファイブフォースの図)
これが、競争戦略の場面でよく用いられるファイブフォースと呼ばれるフレームワークだ。詳しいことは「経営戦略論」で学ぶけれども、興味のある人は自分で調べてみて欲しい。
ここは自主的に勉強するところなんだから、そのぐらいはやろうぜ。