法人番号を使った予想される未来(あるいは妄想)

はじめに

番号制度というと、どうしても個人番号にばかり関心が偏りがちだが、法人番号も忘れてはならない。
法人番号の管理主体や付番については、以前もこのブログの記事として書いた。
がっかりしたような、ホッとしたような法人番号 (2014.4.16付のエントリ。でも記事が消えている。なぜ?)
Twitterの記事更新つぶやきでは、日付とタイトルしか残ってない。
まぁ、記事が消えているのなら仕方ない、思い出して書き起こしたうえで、現時点で法人番号に対する私の見解を書いておくことにする。

がっかりしたような、ホッとしたような法人番号(記憶をもとに書き起こし)

おそらく記事を書いたきっかけは、日経BPの井出さんが書いた記事だと思う。
マイナンバーが“次”に目指すもの(NikkeiBP ITPro)

番号法の施行令が公布され、法人番号についての詳細もこれで確定した。法人番号は商業登記における会社法人番号(12桁)の先頭にチェックディジットを加えた13桁で構成される。

当時の私はこれにがっかりし、一方でホッとしたのだ。
がっかりした理由は、番号のもともとの発生源と付番主体が異なることについてで、以前からそのセンスの悪さを指摘していたのだが、結局センスの悪いまま決まってしまったことだ。
商業登記における会社法人番号はご存知のとおり、法務省(法務局)いわゆる登記所で付番、管理されている。商業登記簿謄本(登記事項証明書)を見るとわかるが、12桁の番号が隅のほうに記載されているので、誰でもわかる。
つまり、法人(と会社法人番号)の発生と消滅は法務局が司っているわけである。
ところが、番号法に基づく法人番号の付番主体は国税庁だ。国税庁は法務局から法人登記情報(差分)を受け取って、新たに法人番号を付番する。すなわち、法務局と国税庁で1:1のマッピングを行っているのだ。ここの筋が(システム屋としては)よろしくない。
この時点で(法人の発生や消滅に関する)情報の同期にタイムラグが発生することが確定した。後で聞いたら、情報の同期は月次で行われるそうだ。
やれやれ。なぜ、法人番号の付番主体が法務局でなかったのだろうか。その理由はよくわからない。
もっとも、法人番号は行政機関や人格なき社団など、登記を要しない組織に対しても付番されるので、登記対象の範囲を超えているのだ、という意見もあるだろう。ならば、逆にそれらの組織も登記対象にすればよかったのだ。登記特別会計が潤うことは確実だったのに。
もっと言えば、有限責任事業組合(LLP)は、登記対象(もちろん会社法人番号を持っている)であるにもかかわらず、法人番号の付番対象から外れているらしい。LLPはパススルー課税なので、法人税が課税されないからか? ということは、法人番号は課税のためだけの番号ということになる。国税庁が付番主体になるというのはこういうことだ。
一方、ホッとしたこともある。法人番号の付番ルールである。付番のルールは「法人番号の指定等に関する省令(平成二十六年八月十二日財務省令第七十号)」というもので定めてられている。
ポイント(というほどでもないが)は、検査用数字(チェックディジット)の計算方法。

(検査用数字を算出する算式)
第二条  令第三十五条第一項に規定する財務省令で定める算式は、次に掲げる算式とする。
算式
9―((n=1(シグマ)12(Pn×Qn))を9で除した余り)
算式の符号
Pn 令第三十五条第一項に規定する基礎番号の最下位の桁を1桁目としたときのn桁目の数字
Qn nが奇数のとき 1、nが偶数のとき 2

いわゆる「重み1,2のモジュラス9の補数」というやつである。難しくない。電卓で計算できる。そしてこの検査用数字が12桁の会社法人番号の先頭につくという仕組み。
つまり、番号法に基づく法人番号は登記上の会社法人番号を知っていれば計算によって導き出すことが可能なのだ。センスの悪い1:1マッピングだと思うが、それでも無作為な番号を振りなおすような愚かな行為に及ばなかったのは不幸中の幸いである。
ただ、やはりこういう付番をするのならば、現在運用できている会社法人番号をそのまま使ったほうが税金の無駄はなかったと思うけどね。
と、ここまでが以前書いた記事の内容だった。

法人番号の公表について(でも、どうでもよくなった)

さらに派生して、法人番号の公表についても考えておこう。
法人番号が個人番号と違うのは、その情報が公表され利用の制限がないというところだ。番号ばかりが注目されているが、?公表にともなう出来事を想像するとちょっと背中が寒い。
というのは、公表される情報と公表のされ方がちょっとエグいのだ。法人番号の他に、法人名、法人の本店所在地、代表者名という「法人3情報」が一緒に公表される。確かにこれらの情報はこれまでも登記事項として閲覧可能な状態だった。
また、民事法務協会(法務局ととても関連の深い一般財団法人)の登記情報提供サービスを使うと、これらの登記事項はオンラインでも閲覧できる。あまり知られていないが、法人名称と所在地の地域を検索キーにして検索することもできるし、検索結果の一覧までならば無料で利用できる。(個別の登記事項を閲覧する段階で課金される)
ところが今回は、法人番号と法人3情報をセットにして、しかも全国で付番対象となっている全ての法人の情報をファイルでダウンロード可能にする、という方法で公開するのだ。その他にもAPIを公開してシステムから検索や照会をかけたりもできるようになるらしい。

国税庁:法人番号について(ご紹介コーナー)

当初、法人番号の計画が示された時には、情報照会機能について「登記情報提供サービスとやっていることが重複してるんじゃないか」という指摘をしていたのだが、私の予想を大きく超えているというか、上手く棲み分けしたというか、ものすごい展開になってしまった。
誤解を恐れずに言えば、もう法人番号なんてどうでもいい。全国の法人3情報のデータベースが無料で公開されるという、ビッグなオープンデータ施策に頭がクラクラしてしまったのだ。
何がすごいのかというと、これだ。

  • 所在地で検索できる
  • 代表者名で検索できる
  • 定期的に情報がアップデートされる

所在地で検索できる

想像してみればわかる。最近のGISサービスは非常に優秀で、住所を投入すれば自動的に緯度・経度の座標に変換し、地図上に表示してくれる。
全国の法人データベースを地図上に展開することは、誰でもできるようになるし、その結果を誰でも閲覧することができるだろう。そうすると、人はまず自分の現在の居住地の周囲にどれだけの法人が存在するのかを見たくなるものだ。
その時に、隣の家の人が実はプライベートカンパニーを持っていたり、ある雑居ビルにものすごい数の法人が集まっていて、そのほとんどが実体を持っていないペーパーカンパニーだということに気付いたり、ついには自分の居住地になぜか知らない会社が登記されていた! などが判ったりするわけだ。これって怖くない?
もちろん怪しい会社が炙りだされてくるというのは、歓迎すべきことなのかもしれないが、ここからどのような出来事が起こるのかは、今の私にはこれ以上想像できない。

代表者名で検索できる

代表者名で検索できるということは、ある人物が法人の代表者になっている可能性を確認できるということだ。もっとも同姓同名もいるし、そもそも登記には公信力がないので正確とは言い切れないのだが、所在地との組み合わせや他の情報との突き合わせで判ってしまうこともあるかもしれない。
地図上にマッピングした所在地を見て、それが民家だと判明すれば、自宅を法人の所在地としたプライベートカンパニーであると推測することもできるだろう。つまり間接的に自宅が判明してしまう可能性もあるのだ。
心配し過ぎ? うん、確かに心配し過ぎなのかもしれない。

定期的に情報がアップデートされる

これはそのスジの人にとっては嬉しい話。
一ヶ月遅れというものの、登記情報が反映されるということは、この更新情報をウォッチしておくことにより、法人の動態の一部が可視化されるのだ。一部というのは、ここで可視化できるのは、法人の新設と解散、所在地の変更、代表者の変更である。
税理士や社労士なんかはウハウハだと思う。だって、毎月どの会社が新設したのかを無料で知ることができるのだ。法人名称も所在地も代表者名もわかっているのならば、顧問契約を勧誘するDMを送るしかないでしょうな。
許認可を扱う行政書士も同様。取引関係にある会社の所在地変更、代表者変更の情報がキャッチできるのならば、許認可事項の変更届を出しそびれるようなミスもなくなるのではなかろうか。

まとめ

今回は法人番号について考えてみた。ビジネスチャンスと思う方はそのように活動すればよいし、漠然とした不安や脅威を感じている方は身辺整理の機会なのかもしれない。
私自身は健全な商取引が行われる環境整備の一助になればよいな、と思う程度である。