情報システム調達:提案公募での業者選定手法はこれまでの呪縛を打ち破れるか(4)

前回の記事「情報システム調達:提案公募での業者選定手法はこれまでの呪縛を打ち破れるか(3)」の続きです。
前回までの議論を踏まえて、提案公募(プロポーザル型)調達の事例をお示ししましょう。
意外に知られていませんが、公募型プロポーザル方式で用いられている評価手法は、アメリカのケプナー・トリゴー社が考案したものが、元々のネタとなっています。
ケプナー・トリゴー法(KT法)の中の、DA(ディシジョン・アナリシス:決定分析)と呼ばれるものです。
DAは、多様な手段の中から最適なものを決定するための手法であり、今回のような業者選定の他にも、ビジネス戦略の決定などにも用いられています。
いくつかの自治体の公募型プロポーザル方式は、DAをかなり簡略化したうえに、骨抜きにされ、どうやら本来の趣旨を捻じ曲げられてしまっているようです。
(後からいくらでも言い訳できるよう曖昧な運用がなされている)
#というか、どこかのガイドラインあたりから借用してきたものが、伝達している間に劣化してしまったのかもしれません。
そこで本来のDAを取り戻すべく、評価基準の方針を私が考え、この方針に従って、評価基準およびRFPを作成させました。
(架空の自治体、自治市における事例ですが、少し私自身の過去の経験を踏まえた事柄が含まれているので)守秘義務違反にかからない範囲で、なるべく具体的に書いておきます。

RFP

RFIによる全体イメージの構築

公募型プロポーザルを実施する前に、目的とするシステムに関する情報収集をRFIにより行わせました。
その際に示すのは「前提条件」です。
これにより、どういう手法でシステムが構築可能なのかのおおよそのイメージをつかむことが可能となります。
一般的な情報システム構築の場合には、機器構成とソフトウェア構成、パッケージ適用の場合には適用可能なパッケージの機能評価、カスタマイズの範囲などが含まれます。
今回私が監督した案件は、情報システム基盤の機器が中心となるものでしたので、機器構成や運用手法などが中心となりました。
少なくともこの段階でシステムの方針は決まってしまいます。
併せておおよその方針に基づく概算見積額についても情報提供を受け、行政機関内に対する予算折衝の基礎資料とします。

提供を受けた情報の整理と、要求・提案への分類、重みの検討

方針づけられたシステム構成に関する情報を整理しつつ、システム構築に際して絶対に譲れない事柄を要求事項(MUST)に、より良い提案を求めるべきものを提案事項(WANT)に分類します。
今回の場合には、情報システム基盤の構築事業でしたので、基盤上で安定した性能で個々の情報システムが稼働するために求められる機器やネットワークの最低限度の仕様、そして運用作業の実施や成果物の納品を要求事項とし、一方で災害対策に関する手法や既存システムの基盤への移行に関する手法を提案事項としました。
標準的なパターンでは、同じ評価項目であっても最低限度のスペックを要求事項、それ以上は提案事項としました。
さらにそれぞれの評価項目に対して、どの程度の重要度とするかの重みづけを設定しました。この重みづけはRFPの際に提案事業者に対してあらかじめ示されるものであり、提案依頼者がどのようなシステムを求めているのかを間接的に伝える手段として機能させています。

要求事項に対する評価基準の作成

DAにおいて要求事項(MUST)は、それを満たせなければ候補者になりえない扱いとしています。いわゆる失格という扱いです。
しかし公的機関が実施する情報システム調達では、システム構築の手法(工法)が確立されていないのもあり、乏しい情報で失格扱いにすることに心理的な抵抗があります。(そのあたりの思い切りも必要ですが、公的機関の場合「私がルールブックだ」と言い切れない事情もあるのです)
そこで要求を満たすと言い切れない事項については、失格ではなく、0点の評価をする取り扱いとしました。
また、提案書にその旨の記述がなされている場合でも、客観的な裏付けが確認できない事項については、相応の減点評価をする扱いとしています。(今回は50%の減点としました)
というのは、これまでの自治市の公募型プロポーザルは「やります」とオウム返しに書くだけで満点評価となっているにも関わらず、実際の構築段階でそれらが履行されなかったり、縮退仕様となったりするケースが散見されたからです。
ということで、次回に続きます。