地域情報化:地域における情報分野で自治体が担うべき役割は何か(1)

今回からタイトルが変わりましたが、前回の記事「地域情報化:低迷続きの電子申請分野に潜む本当の課題は何か(5)」の続きです。
前回はダラダラと電子申請システムに関する私の思いを書きました。興味のない方には申し訳ありませんでした。補足すると、電子申請に関するここまでの原稿は2008年までの私の大学での研究を元に書いたものです。これを最近の動向に併せて修正してここに載せています。何が言いたいのかというと、以前から私の考えは変わっていないということ、電子申請の取り組みはさほど進んでいないということ、そしてアカデミックの場では誰もこの分野に関心がなく、今後も採りあげられることはないだろうということです。
さて、今回もいきなり脱線します。
2001年にe-Japan戦略が発表された時、私は都内で地道に活動する普通の行政書士でした。もともとITベンダーにいましたので、ネットを使った事務所経営を当たり前のように行っていましたが、当時は変わり者扱いされていました。そんな時代です。
そんな中でのe-Japan戦略というのは、行政書士の世界では意外にインパクトがあったように思います。

曰く「市民が直接行政手続きを行うことで、行政書士は中抜きされてしまうのではないか」

曰く「中抜きされる前に、行政書士はIT分野にも強いということを、アピールするべきではないか(アピールと中身は違いますが)」

曰く「いやむしろ、このような政府の方針には断固反対するべき」

曰く「印鑑はどうするんだ。添付書類はどうなるんだ。申請手数料はどうやればいいんだ」

などなど。
まぁ全貌をつかみきれていなかったこともあり、計画に具体性があるわけでもないので、いろんな人の意見に振り回されて、疑心暗鬼になっていたのでしょう。
ついにはあきらめの境地に達したのか、

「もういい。なるようになるしかない」←高齢の方がこのパターン。
「とりあえず情報収集だけは続けよう」←このリアクションが多い。

となっておりました。
しかしどうでしょう。実際には行政書士たちが不安を抱いていた電子申請の未来は到来していません。うれしいけど拍子抜け、という感じですかね。
こういうことって、未来予測するときによく遭遇します。
岡田斗司夫(いつまでもデブだと思われていた人)の受け売りになってしまい、悲しいのですが、彼の著書の「ぼくたちの洗脳社会」の中では、未来予測のズレについて、パラダイムという視点で整理しています。
http://netcity.or.jp/OTAKU/okada/library/books/bokusen/mokuzi.html
パラダイムの変化(今回の場合、申請手続きが電子化されるということ)に遭遇した場合、その変化の予測はこれまで接してきた「常識」に大きく影響を受けます。
さて、e-Japan計画における電子申請の未来のズレは、どこに起因していたのでしょうか?
前回までの記事では、電子申請が一向に普及しない(電子申請の未来予測がズレる)ことについて、政府(総務省)やその周囲の有識者の見解を示しました。

  1. 電子証明書(あるいは住基カード+公的個人証明書)の普及低迷
  2. 電子申請における添付書類の取り扱いに決定的な解決策なし
  3. 手数料支払い(特に少額)の取り扱いに決定的な解決策なし
  4. 電子申請を選択する際のインセンティブ設計が下手

しかしながら、大きな見落としがあることに意外に誰も気づいていません。
これは政府、有識者とも電子申請を受付する視点は持っているものの、申請を行う側への視点を一度たりとも持っていなかったことを示しています。
どういうことでしょうか。
電子申請に限定することなく、一般的な申請手続きを対象として、順を追って考えて見ましょう。

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