強みを伸ばす経営ではなく、強みを生かす経営

経営戦略に関する講義を担当していると、こんな意見に遭遇することがある。
「経営戦略とは強みを伸ばすためのもの」
一見、正しそうに思えるが、少なくとも競争戦略論において、この見解は違う。
強みを伸ばすということは、活動から生み出す価値を高める施策といえるが、それ自体はオペレーションの効率化でも達成できる。すなわち戦略ではなく、どちらかというと戦闘に近い(オペレーションという言葉が、そもそも操作や作戦を意味している)。
私ならば、上記の言葉は次のように言い換える。
「経営戦略とは強みを生かすためのもの」
強みを伸ばすことと、強みを生かすことは似て非なる概念である。自社が保有する強みを活動間の整合を図ることで、どれだけ効果的に使うことができるかが経営戦略(特に競争戦略)の本質ではないだろうか。
一般的に自社が保有する強みを「コアコンピタンス」と表現することがある。そして、コアコンピタンスに基づいた経営のセオリーとして、コアコンピタンスは自社で抱え込み、コアコンピタンスでないものは外に出す(アウトソーシングする)ことを目指すよう説いている。
ところがポーターはこの考えに疑問を呈している。
コアコンピタンスは社内(あるいは社外)の他の活動とうまく組み合わせてこそ価値を生み出す。そしてその整合性の高さは成果の違いに現れる。
そのため、アウトソーシングする基準は、コアコンピタンスかどうかではなく「一般的な活動」なのか、「自社のために特別に調整している活動」なのかで判断すべきであるとしている。
「強みを伸ばす」という考えに拘泥すると、大切な活動までを失うことに注意しなければならない。