大阪都構想に関する住民投票の結果より

Administrative Lawyer Contribution Strategy

はじめに

断っておくが、私は大阪都構想に特段の興味を持っているわけではない。そもそも大阪市民でもない。ただ、基本的に「変わらない」よりも「変わる」方が面白いと感じるタイプではある。

興味がないのも度が過ぎているというか、住民投票が昨日あったことをニュースでようやく知ったぐらいだ。その結果を見て思ったことを書いておくことにする。

投票結果の分析

ニュースでは投票結果の分析がさまざまな角度からなされている。

支持政党はさておき、年代別の割合が興味深い。また、地域的な違いもはっきりしており、これまた興味深い。

プロスペクト理論から見る行動

プロスペクト理論とは、意思決定モデルのひとつである。行動経済学では頻出する理論であり、カーネマンはこの理論をもとにして2002年のノーベル経済学賞を受賞している。人間が感じる「損」「得」の関係が案外合理的になっていないことを実験などから明らかにしたのである。

グラフにするとこんな感じ。

Fig1

図1.プロスペクト理論のモデル

このグラフは二つのことを示している。

  1. 人間は損得を判断する際に、損(Losses)の方を重く考える傾向にある。
  2. 損得の感覚は、一定ではない。例えば、持ち金がゼロの時に得る10,000円と持ち金が一億円の時に得る10,000円では感じる嬉しさが異なる。損の場合も同様(この場合は嬉しさではなく、悔しさ)。これを感応度逓減性という。

さらにもう一つグラフを示そう。この感応度が時間を経ることよりどのように減衰していくかを示したものである。

Fig2図2.これも感応度逓減性のひとつ

例えば、目先の100,000円と5年先の100,000円の価値を比較してみよう。合理的に考えるのならば、5年先の100,000円は利息を考慮した現在価値に換算すれば100,000円を下回る。年利1.3%で計算してみると、現在価値は93,746円である。

ここで質問を変えてみると、どうだろう。

  • 「今すぐ90,000円もらえるのと、5年後に100,000円もらえるのと、どちらを選びますか?」
  • 「今すぐ90,000円支払うのと、5年後に100,000円支払うのと、どちらを選びますか?」

ちなみに、5年後に100,000円もらう方が受取総額は大きいのだが、目先の90,000円を選ぶ人は多い。一方、支払う場合になると、5年後に100,000円支払う方を選ぶ人が現れる。未来の話は人間の感覚を麻痺させるのだ。

投票行動について

賛成派の主張や投票結果を概観すると、「今、行政の合理化、財政の緊縮化を目指さなければ未来は暗い」という主張を掲げ、比較的若い世代の有権者の支持を集めていたようだ。一方、反対派の主張や投票結果は、「今、行政サービスを低下されるのは困る」という主張であり、高齢者の支持を集める結果となった。

つまり「目先の損か未来の損のどちらを選ぶ?」という意思決定の投票だったのだろうか。ただでさえ、目先の損に対する感応度は高いので、賛成派はそれを上回る得(メリット)を比較的短い時間軸の中で示さなければならなかったということと、有権者に「将来」をどの程度の時間軸として評価してもらうかの考えがうまく伝わっていなかったのではないだろうか。

単純に考えれば、利己的な高齢者層にとって、見通す未来が長くある必要はない。もちろんすべての高齢者が利己的とは思えないのだが、利他的な振る舞いをするためには、ある程度の余裕(心理的、経済的)が必要だろう。余裕のある人たちが多く住む地域で賛成派が多かったのは、このような理由もあったのではないだろうか。

投票行動モデルを考えれば、事前にここまでのハンデを背負っての大阪都構想なのである。それが僅差まで迫ったというのは、実は大阪の人たちが少しだけ未来を考えたということなのだろうか。10年後に同じような住民投票が行われたら、ひょっとして大阪の歴史が変わるかもしれない。

 

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